閑話-33 ストリング系物理音源 SWAMにIR(Impulse Response)が追加されたことについて(その2)

ストリング系物理音源 SWAMにv.3.10でIR(Impulse Response)が追加されたようですので、自分なりに調べてみたことをPart 2として書いておきたいと思います。 間違っているところなどありましたらどうぞご指摘ください。

1.SWAM の設計と従来の仕組み(〜v3.9)
SWAM は、実際の楽器の構造と演奏動作を物理的にモデル化し、リアルタイムに音を生成する完全な物理モデリング音源です。 弓の動きや圧力、指の位置といった入力に応じて、弦や胴の共鳴、倍音の変化が逐次計算されます。 そのため判別はなかなか難しいとは思いますが、「毎回微妙に違う音」が生まれることになります。 CPU 負荷は大きいですが、ライブラリサイズは非常に軽量です。

従来の SWAM には Ambiente(内部ルームシミュレーション) があり、「Cremona」「Firenze」「Roma」といった都市名プリセットで空間の響きを切り替えられました。 ただしこれは IR を使わず、あくまで数値モデルによる残響アルゴリズムでした。 Ambience をオフにすると空間的な残響は消えますが、楽器本体のモデリングはそのまま残り、必要なら DAW 側で外部 IR を適用することもできました。

2024年の v3.8 で Ambiente Room Simulator が刷新され、より高度なルームシミュレーションが可能になりましたが、ここでもまだ IR は使われていませんでした。

2.SWAM v3.10(2025年9月)でIR(Instrument Body)の追加
2025年9月の v3.10.0 で、ついに Instrument Body(IR) が導入されました。 これは楽器胴のインパルスレスポンスをシミュレートし、楽器本体の“箱鳴り” をリアルに再現することがねらいのようです。

プリセットには「Cremona」「Firenze」「Pisa」「Bologna」などの都市名が追加され、従来の Ambience とは別に「楽器胴の個性」を切り替えられるようになりました。

各楽器には「Dry Body」も用意されており、これを選べば従来どおり IR をかけない状態で使うことも可能のようです。
信号の流れは「物理モデリング音 → Instrument Body(IR) → Ambience → 出力」という直列構造になります。 その結果、IR = 楽器胴の響き、Ambience = 部屋やホールの残響と役割が明確に分かれました。

この追加により、弓位置の移動やアタックのニュアンスが従来よりも自然になり、特にソロ演奏では「生楽器らしい響き」が期待されます。

ここでSample Modeling と Audio Modeling の歩みを振り返ってみます。
1.Sample Modeling の登場
2007 年頃、イタリアのエンジニア集団によって Sample Modeling が設立されました。 彼らは「サンプル録音を非常に短い単位で用い、それを物理モデルで補正・変形して使う」という革新的な方式を採用し、The Trumpet や The Saxophone などの管楽器音源で注目を集めました。 このアプローチは、サンプルのリアリティとモデリングの柔軟性を両立させた「ハイブリッド方式」として高い評価を得ました。

2.Audio Modeling の独立
2017 年頃、Sample Modeling の共同創業者の一部が独立し、新会社 Audio Modeling を設立しました。 ここで開発されたのが、現在の SWAM エンジンです。
Audio Modeling は徹底して「サンプルを使わない完全物理モデリング」を追求することになったようです。 結果として、Sample Modeling は「サンプル+モデリングのハイブリッド」、Audio Modeling は「完全物理モデリング(SWAM)」という二つの流れが生まれたわけです。

3.IR の扱いの違い
この歴史的な分岐は、IR の扱い方にも表れています。
Sample Modeling(SCES)
→ 無響音室で録音したサンプルに 内部 IR(畳み込みリバーブ) を適用して「空間特性」を与える。
→ CC100 で IR の寄与度を制御できる。

Audio Modeling(SWAM)
→ 当初は IR を使わず、Ambience(数値モデルのルームシミュレーション)のみ。
→ 2025 年の v3.10 で初めて Instrument Body(IR)=楽器の胴鳴り が導入され、Ambience(空間)と分離された二層構造に進化。
出自は同じながら、SCES=空間の IR、SWAM=楽器の IR という違いに到達したのは興味深い点ですね。

以前SWAM Solo Celloでサンサーンスの 白鳥を打ち込んだことがあります。 今回のIR追加がどんなもんか比較してみようかなと思ってますが、打ち込み技術については素人ですのでどうなりますことか。