Beethoven Piano Sonata N0.27

少し時間はかかりましたが、ベートーベンのピアノソナタ第27番が仕上がりました。

年代的に見ると、第26番《告別》以降、この27番まで約4年間、ピアノソナタは作曲されていません。この時期は、ナポレオン没落後にウィーン会議が開かれた頃にあたり、音楽史的にもロマン派へと移行していく転換点に重なります。

そう考えると、ベートーベンは古典派からロマン派への橋渡し役を担った作曲家とも言えますが、この作品にも、そうした転換期を映すかのような、情感に直接訴える性格が感じられ、以前の作品とはかなり趣が異なってきているように思います。

各楽章の冒頭には、ベートーベン自身の思いを直接伝えるドイツ語の指示が書かれています。
第1楽章には
「Mit Lebhaftigkeit und durchaus mit Empfindung und Ausdruck」
(速く、そして十分に感情と表情をもって)
第2楽章には
「Nicht zu geschwind und sehr singbar vorgetragen」
(速すぎないように、そして十分に歌うように)
とあり、この頃から楽譜への指示がいっそう細かくなっていくのが分かります。すでに耳が不自由になっていたことも、その背景にあるのでしょう。

ただし、第30番から第32番に至る、深い思索に満ちた後期三曲とはまた性格が異なり、どこか不思議な印象を受ける作品でもあります。そのため、これまで取り組むのを後回しにしてきましたが、案の定、なかなか難しい音作りになりました。

我が師は次のように言っています。
「特に第2楽章は繰り返しが多く、全体の変化が小さいまま長く続くため、シューベルトの後期ソナタに似ています。ですから、これをうまく弾くのは並大抵のことではありません。若い演奏家の演奏を聴いても、どうしても『つまらない』と感じてしまうことがあるのではないでしょうか。」

また、アンドラーシュ・シフはレクチャーの中で、次のような逸話を紹介しています。
かつてルービンシュタインが
「このホ短調ソナタの第2楽章は、なぜ主題をこれほど何度も戻してくるのか。さすがに多すぎるのではないか」
と言ったそうです。
しかし、私はこの意見にはまったく賛成できません。これほど美しい主題であれば、何度でも聴きたいと思うからです。しかも、決して同じ形で戻ってくるわけではありません。その前に何があったか、次に何が来るかによって、主題の表情は常に変化しています。

実は、それをどう表現するかが一番難しいところなのですが……。
さて、私の仕上がりはどうでしょうか。

曲名: Title: Piano Sonata No. 27 in E Minor, Op. 90
音源: Sound Library: Synchron Concert D-274
Audio file format: mp3
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